高齢者の歯科治療(8)

急性期ケアから、回復期、長期ケア、居宅ケアの全てに共通する歯科医療従事者の役割は「口から食べる」ことに積極的に関わり、支援すると云うことです。経口摂取で消化管を動かすことは、急性期ケアの肺炎予防や回復期ケアの筋肉増強で生活参加することと同じ意味をもつことであると思います。

実際に歯科医師が患者宅に訪問した際、絶対に守るべきことは「呼吸路の安全性の確保」です。口腔ケアすることで出る汚れた刺激性唾液を、誤嚥すると肺炎になってしまうのがその例です。経口摂食を急ぐあまり、呼吸路の安全性の確保を忘れると、食べ物が喉に詰まり、窒息事故を招くことに繋がります。QOLの向上に経口摂取は必要ですが、口から食べると云うことには、常に誤飲性肺炎や窒息のリスクがあると云うことを忘れないようにすることが大切と思います。

経口摂取の前に、口腔環境を整えることでリスクに備えることが先決といえます。そこで重要なことの一つは、口にどれだけ感覚が残っているかを判断することです。

例えば、急性期病院で長期間にわたって経口摂取をしておらず、上下総義歯を外したままになっていた患者さんが、噛む感覚がつかめないまま経口摂取に移行した場合、飲み下しに失敗して誤嚥性肺炎や窒息を招くことがあります。長期間の非経口摂取の場合、咽頭感覚は鈍磨し、誤嚥しやすい状態になります。

なぜかというと、咀嚼をするためには舌が前後・上下・左右に動くことが必要ですが、総義歯のように咬合を維持していた義歯を長期に外していると口腔容積が減少し、舌の運動範囲が制限されます。そのため、舌の動きが前後運動しかできなくなります。経口摂取に切り替えるつもりで、この状態のままいきなり上下の総義歯を入れても、舌は口蓋に接触せず、食物を後方に送り込めないため、結局食べることはできません。

では、非経口摂取から経口摂取に切り替える際にはまず「末梢神経の評価」から始めることになります。三叉神経・舌禍神経・顔面神経・舌神経の4つの神経の神経内科的な評価を行います。その評価に応じて目標を決め、定められた方法で訓練をしていきます。

つまり、初めて訪問診療を受診する患者さんに対しては、義歯を外している場合、まず口腔内の神経の動きを評価し、その後で呼吸路の安全性を確保し、口腔内清掃を行うことが基本であると言えます。



クリニック案内ページへ

歯科治療ガイド HOME に戻る

PAGETOP