高齢者の歯科治療(4)

4つのステージについての具体例を挙げてみたいと思います。
例えば、何らかの突発的な症状で急性期病院に入院し、手術に備えて人工呼吸器に繋がれている患者さんの場合、口腔ケアが達成すべき最大の目的は人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防ですから、口腔ケアの内容は徹底した「口腔清掃」となります。

その後、無事に手術が成功し、人工呼吸器が外された場合、今度は「機能訓練」としての口腔ケアが求められます。人工呼吸器をつけている間は非経口摂取で口を動かしていませんから、口腔機能が急激に廃用化しつつあります。その廃用化を防ぐために、口腔機能を積極的に賦活する必要があります。

急性期を脱し、健康状態が比較的落ち着いてくると、患者さんはリハビリテーション病院などに移ります。この頃には、経口摂取も少しずつ始まっていますから、それに伴う誤嚥性肺炎を防止すると共に、口腔機能を除々に上げていくことが口腔ケアの目的になります。

そして、健康状態がかなり落ち着き、いよいよ退院に向けた準備という段階では、生活復帰に向けた機能訓練と、健康状態を維持するための清掃の両方をバランスよく行うことが適切な口腔ケアとなります。

以上のような考え方は、在宅での訪問診療にも応用できます。目の前の患者さんがどのような経緯で在宅介護になったにかを聞き出すことで、適切な機能評価ができるからです。

ところが、ステージ別の概念がないままで訪問診療を行ってしまうと、非常にちぐはぐなことになってしまいます。その最たるものが「入れ歯にしたのに食べられない」というケースです。施設での長期療養を経て、在宅療養に戻った患者さんのご家族が「入れ歯を作ってほしい」と訪問診療を依頼されることはよくあることです。

義歯があれば、以前のように口から何でも食べられるようになると期待されているからです。しかし、長期療養中に口腔機能が廃用化している場合には、舌がうまく動かなくなっており、口の中の食べ物をうまく咀嚼することも、喉に送り込むこともできませんから、義歯を装着したところで食べられるようにはなりません。

一方、もし同じ状況で適切に機能評価を行うことが出来れば、現場の介護スタッフやご家族と連携して機能訓練で口腔機能を賦活することができますし、さらに口から食べることの支援が行えます。そうした多職種との連携の中で患者さんを継続的に支援できるのは「地域のかかりつけ医」である開業歯科医院しかないと考えますし、それこそが強みでもあると思います。



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