高齢者から学ぶ

先日、定期健診でご高齢の方がいらっしゃいました。
大正生まれの93歳の方でしたが、通常の歩行に杖などを使うことも無く、また階段もすいすいと上り下りされ、補聴器なども必要無く普通に会話も出来、外観からはとても93歳には見えない方で、11本のご自身の歯をお持ちでした。

上下に部分入れ歯は入れていらっしゃいますが、神経の無い歯や冠を被せてある歯も含めて11本の歯が現存していることはご年齢を考慮すると、大変素晴らしいことであると思います。

このご年齢であれば勿論、戦争も経験されており、十分な食べ物がない時代を生きぬいていらした訳ですから、全身的な栄養も満足に摂れず、ご苦労をなさった事と思います。おそらく、イモなどの穀類が貴重な食べ物であり、銀シャリ(現代のごく普通の白いごはん)は、贅沢品でありかつ、大変高価な品物で入手も困難を極めた品物だったと思います。ましてや、甘味な物となれば最高級の希少品であったと思います。

普通に考えると、栄養不良から歯の成長発育に悪影響を及ぼし、非常にもろい歯になってしまい、う蝕抵抗性も低く直ぐに抜け落ちてしまい、早い年齢から総入れ歯のお世話になりそうな感じがしてなりません。

しかし、実際にご高齢の方の歯を治療上必要があって削ると、かなり硬いと云う印象があります。特に奥歯系では、歯の噛み合わせ部分にある細かいすじのような「溝」が殆ど無くなっている方を多く見受けますが、これは「咬耗(こうもう)」と言って、主に硬さのある食品を食べる習慣から起こる現象で異常なことではありません。また、溝があってもそこにう蝕が存在しないことも多くあります。

簡単に表現すると、穀類などの繊維性食品を多く摂取することによりその繊維によって清掃されるような現象が起きていると考えてもいいかと思います。更に、魚は小魚はもちろんのこと、たいていの焼き魚などは頭からバリバリ食べていらっしゃるようですので、小骨などを咀嚼することによって咬耗が進み、歯の溝がだんだん無くなり、その溝からのう蝕の発生も無くなる、と云う一つの姿が見えるような気がします。

食生活が豊かになって、24時間いつでも、食べたい物や美味しい物が好きなだけ手に入るようになった現代、満足のいく食生活を送っている私たちには、世の中が豊かになってくると同時に、知らない間にう蝕になりやすい環境が食生活から生まれてしまったような気がします。

美食は健康にとって良くない結果をもたらすことが多く、ダイエット志向から低カロリー食を意識する傾向にありますが、これは歯にとっても良い方向となるのではないでしょうか。人生の先駆者から学ぶことは数多くあり、ご高齢の方の治療に際しては、常に敬う気持ちを持って接したいと思います。



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